英語を英語のまま理解するために捨てるもの

英語を英語のまま理解できると、一瞬で英語が理解できるようになります。けれど英語を英語のまま理解するとはどういうことかをわかってもらうのは困難です。だから視点を変えて、英語を英語のまま理解するために「要らないもの」をお伝えします。今まで難しく考えすぎていただけということに気づくはずです。

「英語を英語のまま理解する」の正体

「英語を英語のままで理解する」ことで、スピーキング・リスニング・リーディング・ライティングの全てにおいて、圧倒的なスピード感を持つことができるようになります。ではその「英語を英語のまま理解する」とはどういうことを言うのでしょうか。

実際私も英語の本を読むときは英語を読んでそのまま理解しているので、いったいどんな脳の動きであるのかを確かめてみました。そしてそれを正確に伝えるために言語化していくと、気が付いたことがありました。それは「英語を英語のまま理解する」というのは言葉の感覚であって、実際に頭の中でしていることは「英語をイメージで理解する」ことなのです。でも一般的には広く「英語を英語のまま理解する」と言われています。

なぜそんな表現をしているのだろうかと考えてみました。おそらく「日本語を介さない」ということを強調するためなのではないかと思います。日本の英語教育は昔からなぜか「和訳」を重んじてきたように思います。そして無意識のうちに私たちは「和訳すれば英語の文章の意味を理解できる」と思い込んできたのです。

でも悲しいことに、和訳すれば英語の文章の意味を理解することができるという考えは、ただの幻想にすぎません。実は和訳と英語の文章の意味を理解することは別物だからです。では英語の文章の意味を理解するためには、何をどうやって訓練すればよいのでしょうか。

それは母国語と同じような頭の使い方ができるようになればいいのです。具体例をひとつ出してみましょう。

「女性が本を読んでいます。」
このような言葉を聞いた時に、私たちは聞いた瞬間にイメージ図のようなシーンを想像しているのです。

「女性が本を読んでいます。」
イメージ図

私たちが母国語でこのような言葉を聞いて理解するとき、文法のことなんか考えていません。一瞬で言葉が理解できるのは、イメージできているからです。母国語を聞いてイメージすることが無意識にできているから、実感できないかもしれません。そこでもう一つ別の例をあげてみます。

英語のリスニングの試験で、場面や誰かとの会話を聞き取った後、質問に答える形式の問題を解くとき、英語を聞きながらメモを取るなんて、至難の業です。書いているときは聞く意識が薄れるので、聞き逃すことが多いのです。ではメモを取らずに頭の中に「あれがこうなってこうなって・・・」と言葉で覚えようとしたら?頭はパンク状態。

では英語を聞いている間、目を閉じて聞いた通りに場面や会話をしている人たちの身振りや表情などもイメージしていると、意外とサラサラ~と解答できます。イメージすることにより、聞き取った細かい事柄を記憶にとどめておきやすいのです。日常会話レベルの内容なら、まずイメージしたほうが理解が速いうえに記憶に留めやすいです。

英語で聞いた内容をすぐに忘れてしまうという人は、英語を聞いた瞬間に頭でイメージを浮かべることができるようになると、その悩みは消えるでしょう。

英語をイメージで理解するための練習方法ー不要なものは捨てよう!

ではどうすれば英語を聞いたり読んだりした瞬間に、イメージで内容を理解できるのかについてこれから順に説明します。そのために身につけることよりも、恐らく不要なもの=捨てるもののほうが多いと思います。

和訳を捨てる

和訳は英語を聞いたり読んだりした瞬間からイメージによって理解できるようになるためには、邪魔なものです。別の言い方をすれば、英語を和訳しなくては理解できない英語レベルは、英語を瞬間的に理解できるようになる練習には不向きです。

表現がまどろっこしいので、「英語を聞いたり読んだりした瞬間からイメージによって理解できるようになる」というのをこれから「英語をイメージで理解する」と簡単に表現することにします。

「和訳はしないで、英語をイメージで理解して」と言われても、「そんな無茶な!」と思うかもしれません。でも1語からだったら?できると思いますよ。2語―3語でも、大丈夫だと思います。人によっては一文が5語ぐらいあっても、できる人はいると思います。できなければ何度も繰り返せばいいだけです。繰り返すうちに当たり前のようにできるようになります。

返り読みを捨てる

返り読みとは、英語の文章を後ろから前へ訳しながら読む場合にする読み方です。日本語の語順通りに英語の文章を読もうとするために、文頭から順に読むのではなく後ろから前へ行きつ戻りつしながら読むことを言います。

英語をイメージで理解するためには、返り読みをする必要はありません。文頭から読んで、そのままイメージ化していけばいいだけです。こっちのほうが返り読みよりもずっと簡単です。

それができないのは、いきなり難しい英語の文章でイメージ化しようとするからです。もっともっとシンプルな英文でトレーニングを積まなくてはいけません。山登りを始めた初心者は、いきなり難易度の高い登山コースを選んだりしないのと同じです。お散歩コースにすべきなのです。

基礎を築くためには、そういう練習を多く積む必要があります。基礎をおろそかにして立派な建築物を作っても、すぐにガタがきて崩れてしまいます。

辞書を捨てる

辞書なんか、当然不要です。英和はもちろん、英英も不要です。英語学習や英語を使う仕事や英語環境で生活をするために辞書は一切不要とまでは言いません。英語をイメージで理解できるようになるための練習には、辞書は不要という意味です。

なぜそう思うかは、次のような実例があるからです。親の仕事の関係で子どもの頃にアメリカに渡ったバイリンガルの話を直接あるいは人づてに何例がきいたことがあります。初めは日本語しか知らないため、現地の小学校へ入った時言葉がわからず苦労したそうです。その日出された宿題が何であるかもわからない状態です。

担任の先生からのアドバイスは「辞書は必要ないから使わないように」。その後、スムーズに英語に慣れていったという話があります。これは特別なことではなく、当たり前のことだと思います。

私自身は外国で暮らした経験はありませんが、「辞書はわからない言葉すべてを教えてくれるもの」という認識で、わからない言葉に出会う度に頼っていると、一つの言葉にしか注目できなくなります。そうではなく周りの様子や発言した人の表情、話の流れなどの全体を見たうえで、わからない単語の意味が何であるのかを推測する訓練は言語を習得するためにはとても大事だと思います。それは私たちが母国語を使うときに無意識にしていることと同じだからです。

単語一つにとらわれていたら、リスニング力も伸びません。多少わからない単語があっても文脈から推測して文章全体で理解するような力は、絶対に必要です。なぜなら言葉は無数にあり、そのすべてを覚えることなんて不可能だからです。母国語でも、ありませんか?あって当然ではないですか?大人になって初めで出会う言葉や見たことあるけれど、意味を知らずに使っていた経験は誰もが持っていると思います。

文法を捨てる

もうめちゃくちゃなことを言っていると思われるかもしれませんが、大真面目です。文法を考えながら英語を読んでいては、いつまでたっても英語をイメージで理解できるようになりません。考え方としては「逆」なのです。まずは英語を読んでイメージで理解できるようになる。次に文法を学習するという順です。

文法が先に来ると、頭の中から日本語が追い出せなくなります。英語で英文法を学んだとしても、文法知識で英語を読み解こうとすると、イメージで瞬間的に英語を理解することはできません。

母国語で小説などを読むときのことを考えてみてください。この記事を読んでいる人の母国語はほとんどが日本語だと思います。日本語の文章を読みながら、内容を理解するために文法の知識を使っていますか?私は全く考えていません。そもそも、国語の文法用語は苦手です。文法と言われても、実はよくわかっていません。忘れてしまっていると言ったほうが良いかもしれませんが。

それでも私は人並みに文章の読解力はあると思いますし、文章を書く力は平均以上かなと思っています。母国語の習得過程で、文法を学ぶ時期は確かにあり、それによって国語力は飛躍的に伸びたと思います。

けれども日本語の文法を学ぶ前に、私たちは読み書きができていました。小学校低学年にもなれば、絵本や低学年向け漫画や児童書を自分で読んで楽しむこともできているのです。小学校に入ってから、簡単な文法から勉強しますが、読むのはそれ以上のレベルのものを読んでいるわけです。聞き取る力・話す力も同じことが言えます。

英語をイメージで理解するようになる訓練を始める時点では、英文法は不要です。簡単な構造の文章を読んだ先から一瞬で意味を理解するためには、文法のことを考える時間などありません。

文法を学ぶべき時期はもっと先です。まずはイメージで理解できるようになりましょう。

英語をイメージで理解する練習方法

英語のリスニングテストで、会話や説明などまとまった量の英語を聞いて、問いに答えるような形式の問題を解く場合、英語を聞いた瞬間に場面(場所、表情、動作など)を思い浮かべられるようになると、楽に解答できるようになります。それは脳の情報処理は言葉をイメージ化したほうが断然早くなるからです。

そして英語をイメージで理解する能力を身につけることは、全然難しいものではありません。ただ正しい訓練のくり返しが必要なだけです。それでは英語をイメージで理解するための練習方法について、簡単に紹介します。

1語~5語ぐらいから始める

1―5語程度からなる簡単な英語の文章を見て、実際に和訳なしで理解できるか試してみてください。

1. Good morning.
2. Thank you.
3. I like apples.
4. What is your name?
5. Is this your book?

いかがですか?何個イメージが浮かびましたか?5つの文章は、何の脈絡もないので、もしも知らない単語や表現があったとしたら、文脈で推測することはできません。物語だとその点、推測するのが簡単になります。絵本だと絵をヒントにできますので、もっと推測しやすくなります。

そういう意味で、日本語に訳さずに英語をイメージで理解するためには、とても簡単な英語で書かれた絵本で練習することをおすすめします。

初めは1冊の総語数が100語以下から始めると、やりやすいと思います。下のリンク記事は、とても易しい英語で書かれた絵本や英語の読み物を100冊以上紹介しています。

1.YL0-1.0(ネイティブの赤ちゃんから就学前児童レベル)

だんだん長い文章を読む

次に簡単で短い文章例と、長い文章例を紹介します。文章が長くなっても、前から後ろへ読んでいくのですが、そのときのコツも少し説明します。

<短い英語の文章>
This is the House that Jack built.
これを返り読みせずに理解してみましょう。難しいときは、下のように区切り(/)を入れてみましょう。
This is the House / that Jack built.大丈夫でしょうか。これはマザーグースの『This is the House that Jack built』です。積み上げ歌で、文章がどんどん長くなっていくのですが、毎回新しい節に前の部分のくり返しで長文になっていきます。積み上げ歌は英語を返り読みしない訓練をしやすい文の構造になっていて、おすすめです。
『This is the House that Jack built』の初めの数行を抜粋します。
This is the Malt,that lay in the House that Jack built.
This is the Rat, that ate the Malt, that lay in the House that Jack built.


出典:http://www.gutenberg.org/files/12109/12109-h/12109-h.htm
<長い英語の文章>
次の長文は、『Alice’s Adventures in Wonderland』の第1章冒頭の一文です。使われている単語はそれほど難しくないのですが、一文が長いときには意味のあるかたまりで適当に区切って読むと、前から後ろへ読むときに非常にわかりやすくなります。
区切りを入れてみますので、前から後ろへイメージしながら読んでみましょう。
Alice was beginning to / get very tired of sitting / by her sister / on the bank, / and of having nothing to do: / once or twice / she had peeped into the book / her sister was reading, / but it had no pictures or conversations in it, / `and what is the use of a book,’ / thought Alice / `without pictures or conversation?’/
出典:https://www.cs.cmu.edu/~rgs/alice-table.html
短い文章から初めて、だんだん慣れてくると上のような長文でも楽に読めるようになります。区切りを今回は細かくしましたが、慣れてくると区切りをもっと少なくしても読めるようになります。

意味のかたまりで区切ってイメージする

意味のあるかたまりを「/」(スラッシュ)で区切って、その区切りごとにイメージしながら読むと、英語の文章を前から後ろへ返り読みしなくても読めるようになります。これは練習が必要ですが、必ず慣れてきます。区切りについてもルールがあるわけではなく、自分が理解できればOKです。

詳しくは私が書いた本『ピーターラビットで学ぶ 英語イメージ楽読術』を御覧ください。

はじめは日本語が介入するのが普通

「日本語を頭の中から追い出して英語を読もう」と言っても、そう簡単にはいきません。私は英語が大の苦手で、英語力も低かったのですが、初めに赤ちゃんが読むぐらいのレベルの英語絵本からスタートし、返り読みせずに読めるようになりました。

その頃でもまだ、ちょこちょこ部分的に(一つの区切りごとに)日本語に訳す癖が抜けませんでした。当時は少しでもあやふやに感じると、日本語にする癖がありました。けれども気が付いたときに「あ、また日本語に訳してた」と自覚することで、次第に頻度が減っていき、ついには日本語の介入が全くなくイメージで理解できるようになりました。

どれぐらいでそうなるかというと個人差が大きいですが、私の場合は125冊を読み終えて読んだ英語の総語数が140,000(14万)語を過ぎたあたりは、まだ時々日本語が頭の中に入ってきていました。

その後しばらくして気が付くと、日本語の介入がゼロになっていました。「日本語がゼロになった!」という瞬間は気が付かないのが普通だと思います。私は読んでいた英語の本がとても面白くて夢中になって読みふけった後、「そういえば・・・」と気が付きました。

夢中になれるほど面白い洋書を見つけるが勝ち

夢中になることはとても大事です。返り読みしないことや日本語に訳さないことや知らない単語を推測することなど、狙ってしているというよりも、物語に夢中になっているときにいつの間にかできるようになっています。

私が実際に経験してみて言えることは、夢中になれるほど面白い洋書を見つけるが勝ちです。それ以外にないと言っていいほどです。それほどに夢中になったときの集中力はすごい力を持っているのだと思います。

私の経験上、英語をイメージで理解できるようになるためのあれこれを詳しく説明することよりも、夢中になれる1冊を探して、とにかく大いに楽しんで読めば自然に身につく技術です。物語に夢中になって、先がしりたくてたまらなくてページをめくる手が止まらない・・・。こうなったとき、日本語に訳すなんてじれったいことはできませんし、返り読みなんてまどろっこしいことをしていられません。前からグイグイ読んで物語にどっぷりと浸るうちに、いつの間にかできているのです。これも私の経験から言えることです。

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