The Giver 安定を求める先にあるもの

Lois Lowry著、『The Giver』(日本語タイトル『ザ・ギバー 記憶を伝える者』)を読みました。アメリカの優れた児童文学に贈られるニューベリー賞受賞していて評価も高く、私の好きな作家さんということもあって、前から読みたいと思っていました。そしてついに、本が手に入ったので読むことができました。

The Giver 記憶を伝える者

   

YL6.2 語数43,139

主人公Jonasが暮らす「コミュニティ」は穏やかで、争いごとなどの物騒な事件は起こりません。生きるのに必要な衣食住に困ることはありません。毎日家族で食卓を囲んで会話を交わします。気候も寒くなく暑くなく。

一件ユートピアに見えるコミュニティは、細かな規則に従って動いています。規則でがんじがらめ。選択の自由などありません。決められた生き方しかできません。人生の始まり、終わりまでコントロールされているのです。

安定したコミュニティ

12歳になると、職業が言い渡されます。職業選択の自由もないのです。家族も実は「家族ユニット」と呼ばれ、両親は存在しますが、血縁関係はありません。子どもを産む職業が存在し、職業として子どもを出産します。出産した子どもは養育センターで職業としての世話係によって一定の月齢になるまで養育されます。

結婚相手を選ぶ自由もなく、相性などを見て組み合わされます。子どもを持つためには、申請して許可されると職業母が出産した子どもを二人まで持つことができます。

男女とも、一定の年齢に達して性欲が現れてきたときから、性欲を抑える薬を服用します。大人は当たり前に一生飲み続けます。

子どもが独り立ちすると、家族ユニットの役割も終わります。両親は老人の家で暮らすことになります。老人の家ではコミュニティでの役割を終えた者を職員が敬意をもって手厚く世話します。老人たちはやがて来る「リリース」の日まで、そこでも何不自由なく過ごすのです。

記憶を受け継ぐ「Receiver of Memory」という任務

12歳になって言い渡される職業の中に、いや、職業というよりも任務といったほうがいいでしょう。コミュニティの中でたった一人だけ存在する、名誉ある任務があります。毎年は選ばれず、現在任務に就いている者の交代の時期が来た時に新しくその任務を引き継ぐ者が選ばれます。

その任務は「Receiver of Memory」=記憶を受け取る者と呼ばれます。記憶とは、人類がこれまで残してきた記憶です。人間は自分自身の記憶だけではなく、人間の長い歴史の中に存在する記憶をも知ることで、様々な問題に対処できる知恵を持つことができます。

親や祖父母など、ごく短な人間から引き継ぐ記憶もあります。それは家族愛だったり、愛する者との別れであったり、楽しいことも悲しいことも苦しいことも、記憶があることによって豊かで深い感情が芽生えると思います。

コミュニティに暮らす人々にはそのような「記憶」がないのです。彼らには色が見えません。愛も知りませんし、愛する人と死に別れる感情もわかりません。愛がなく、憎しみも悲しみもないのです。それらを感じさせる記憶がないからです。

感情が揺り動かされない安定した暮らし。毎日が同じで、事件など起こりようがないコミュニティ。それが彼らのコミュニティであり、自分たちでそういう仕組みを作ってきたのでした。

Jonasは同じ年齢の友達がどんどん職業任命を受けていくのに、自分だけ順番を飛ばされて、とうとう最後の一人になってしまいます。そうして最後にJonasに告げられたのが、「Receiver of Memory」という名誉ある任務でした。「Receiver of Memory」とは、人類の記憶を受け継ぐ人間です。コミュニティに暮らす全ての人々たちの代わりに記憶を受け継ぎ、コミュニティが必要とするときに、知恵を授けるという役割です。

Receiverはコミュニティに1人だけ存在します。Jonasは新しいReceiverとして、現在の「Receiver of Memory」との訓練が始まりました。つまり、現Receiverから記憶を新Receiverに移す作業です。現Receiver(記憶を新Receiverに与えるからGiverと呼びます)は、新Receiverに記憶を渡すと自分の中にあった記憶はなくなります。

Jonasは普通の男の子としてコミュニティで暮らしてきたので、当然「記憶」は持っていません。その「記憶」を注がれると、今まで見たことも聞いたこともなかったことを知り、実感もできるのでした。雪の記憶を移されたときには、そりに乗ったり、空から降ってくる雪を見たり、触ったら冷たいという実感も伴うのです。家族や愛という、心があたたかくなるような記憶も移されました。

しかし記憶は楽しいことだけではありません。孤独、憎しみや悲しみなどを伴う記憶や、骨折や切傷などの痛みを伴う記憶、そして虐殺や戦争などの恐怖も実感します。

Jonasは逃げ出したい気持ちと戦いながら、1年間訓練を受けました。その間、Giverから様々な話を聞き、次第にReceiverとしての覚悟と自覚を持つようになると同時に、知恵も持つようになります。

安定を得るために捨てたもの

今の私たちのような社会ではなく、コミュニティは平穏・安定を求めるという決断をしたときから、その仕組みを作るために規範と組織を作り上げました。物質面での安定だけではなく、心理面での安定も必要なので、苦痛や悲しみなどの辛い記憶だけではなく、楽しい記憶も選ばれた一人に受け継いでもらうことに決めたのでした。

それ以外の人々は、「記憶」を持たず選択を捨て知識量をコントロールされた中で一生を過ごすのです。本を自由に読むこともできません。読むのを許された本は、家に置かれた限られた本だけです。

反対にReceiverはどんな本でも読むことが許されています。コミュニティに起きている事柄をなんでも知ることができます。コミュニティには儀式が多いのですが、そのすべては録画されていて、Receiverが見たいときに自由に見れるのです。公にはされないことも全て・・・。

そのような任務の性格上、Receiverは任務で知りえたことは絶対に人に話してはなりません。孤独です。それに人類の記憶を一手に引き受けているために、コミュニティで起きていることからコミュニティ外で起きていることのすべてについて、その事柄の本質や推測が正しくできる唯一の人になるのです。

Jonasはある事実を知ってしまったことから、もう自分の家には戻れないと思うほどのショックを受けてしまいます。記憶と知恵があるために、コミュニティで行われていることの本質が見えてしまったのでした。そしてGiverとともに、命がけの決意をします。

どんな人生が幸せ?

『The Giver』のコミュニティはかなり極端かもしれませんが、安定・安心・平穏を望んだ究極の社会を求めていった結果、行きつく果てなのでしょうか。大事件の起こらない人生ってどうでしょう。つまんない気がします。

病気や飢餓はなく、争いもない。ホームレスになることもない。みんな何らかの職に就ける。社会の一員としての役割を与えられる。確かに安心・安定感はあります。でも・・・人間ですから規範を守らない人もいれば、コミュニティの一因としての役割を果たせない人もいて当然。そのような人は「リリース」されることになっています。それって・・・(物語の重要な部分なので、この先カットします 笑)。

辛いことは経験しないほうがいい、感じない方がいいからと、記憶を奪ってしまうことがどれだけ恐ろしいことか。Jonasにとって、今まで当たり前だった暮らしが記憶を授かることで一変してしまうシーンはJonasばかりか読者もショックを受けるでしょう。

『The Giver』は2014年、映画にもなっています。タイトルは『ギヴァー 記憶を注ぐ者』。またこの『The Giver』は4部作から構成されているうちの1作目。2作目から4作目も本のタイトルと表紙を紹介しておきます。私は全作読みたいです!!


『Gathering Blue』Book2


『The Messenger』Book3


『Son』Book4

4部作セットになっている紙の本、Kindle本もあります。私は紙の本なら持ち歩くので1冊ずつ別になっている本がいいです。Kindleなら何冊でも重さは関係ないですね!


紙の洋書4冊のボックスセット


紙の洋書4作が1冊にまとめた本

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