Kate DiCamillo(ケイト・ディカミロ)著の『The Magician’s Elephant』(ピーターと象と魔術師)を読みました。挿絵は少ないですが、不思議な物語に幻想的なイラストが良く合います。主人公の男の子Peterの思い、それとは無関係に起こった奇妙な出来事や巻き込まれた人々が、徐々に集束して奇跡を起こす物語。
The Magician’s Elephant ピーターと象と魔術師
洋書のタイトルは『The Magician’s Elephant』日本語のタイトルは『ピーターと象と魔術師』です。
この本の著者はKate DiCamillo(ケイト・ディカミロ)。今までに何冊か同じ著者の洋書を読みました。中でも『The Miraculous Journey of Edward Tulane』(愛をみつけたうさぎ―エドワード・テュレインの奇跡の旅)が大好きです。
『The Magician’s Elephant』にはイラストがほとんどありません。ところどころに白黒のイラストが入っているのですが、ミステリアスで幻想的な雰囲気を醸し出しています。
この物語は父を戦争で亡くし、母を妹の出産直後に亡くしてしまった男の子Peterが、父と兵隊仲間だった男と共に暮らしているところから始まります。おじさんに言われるまま、Peterは自分も父の様に立派な兵隊になると決めていたのです。
ある日、街に食べ物を買いに行くようお使い頼まれたPeterは、食べ物ではなく占いのために使ってしまったのでした。それも死んだと聞かされていた妹が実は生きていて、ゾウが妹のところへ連れて行ってくれるというのです。
でもこの辺りにはゾウなんていません。手ぶらで帰ったPeterをひどくしかりつけたおじさん。Peterが占い師に言われたことを話すと、余計に怒らせてしまうだけでした。妹は本当は生きてる?どこで?それが本当ならおじさんはなぜ嘘をつくの?どこからゾウがやってくるというの?いろんな思いが頭をぐるぐる回ります。
ちょうどその頃、街には魔術師が来ていて大魔術を披露していました。自慢の魔術でご婦人にユリの花束を出そうとしたところ、なんと会場の屋根にどこからともなくゾウが現れ、天井を破りご婦人の上に落ちてきて足に大けがをしてしまいました。
Peterはゾウの話を聞いて興奮し、怪我で歩けなくなってしまったご婦人は魔術師を怨み、ゾウを保護するといって屋敷にゾウを連れ帰ってしまった伯爵夫人はゾウをどんどん弱らせてしまいます。
あちこちでバラバラに起こった出来事が、次第に集束し始めて奇跡が起こります。妹はどこに?本当に生きているの?日に日にPeterの気持ちが「妹は生きている」という確信に変わっていきます。
運命に導かれるって本当にあるのだろうか
Peterとおじさんの住むアパートの下階には、警官のLeoと奥さんが住んでいました。お互い顔見知りではあるものの、親交があるわけではありませんでした。街には犬と路上生活をする男の子がいました。たまたま魔術を観に行って足が不自由になってしまったご婦人がいました。どこからともなく現れたゾウが足の上に落ちてきたからです。ゾウ自体に関心はなくても、ゾウを屋敷に連れて帰れば、街中の人がわが屋敷を訪ねるだろうと企むご婦人がいました。
一見無関係の人達が「ゾウ」という共通のキーワードで絡まった糸を手繰り寄せるように、一所に集まってきます。それぞれがそれぞれの理由があって、ゾウに会いたがり、監獄に入れられた魔術師に会いたがるのです。
初めから一つの思いがあって一致団結!というのではなく、それぞれの思いを持ったまま集まり、そしてPeterの叶いっこないような願いが、集まった人々の行動で、さらに自然現象ですら味方になり、奇跡が起こります。
占い師の予言は「妹は生きている、ゾウが会わせてくれる」というシンプルなものでした。物語はPeterがゾウに出会ったからと言って、すぐに妹の所へ連れて行ってくれるのではありませんでした。むしろPeterは、ゾウの姿を見て妹に会うのはあきらめようとさえ思ったのです。
思い通りに行かないと失敗・・・ではない
この物語の面白いところは、Peterがやっとの思いでゾウに出会っても、それで妹の問題が解決しなかったところです。では、占い師の予言はハズレたのでしょうか。「ゾウに会う」→すぐに「妹に会える」とは言っていませんでした。
人生はすべて、人とのかかわりで流れていくのだと思います。出会いには何か意味があって、遠回りに見えても「今、この瞬間」に心を開いて自分の欲だけではなく他人(ゾウも含む)への気遣いも忘れず、自分にできるだけのことを誰かのため、何かのために一生懸命行動することで、いくつもの人生が交わり、ハッピーな方向へ流れが変わっていくのかもしれません。
そういう物語だったからでしょうか、読後温かい気持ちになったのです。
Kate DiCamillo(ケイト・ディカミロ)その他の著書
何冊か読んだ中から、特によかった!!!と思った洋書を2冊紹介します。
まず1冊目は英語の絵本『Great Joy』(ゆきのまちかどに)です。絵がすごく素敵で、大人に読んで欲しい絵本です。クリスマスシーズンに丁度良いです。英語は難しくありません。すべてを文字化せず、特にラストシーンは言葉よりも絵が物語ってくれます。
2冊目は『The Miraculous Journey of Edward Tulane』(愛をみつけたうさぎ―エドワード・テュレインの奇跡の旅)です。私はハードカバーを持っているのですが、こちらの洋書も絵がとても素敵で、お部屋に飾りたくなるほどです。
主人公は陶器でできたうさぎのEdwardです。お金持ちの娘はEdwardがお気に入りで、いつも一緒にいました。Edwardは自分が気品あふれるうさぎであることを自覚しており、自分のことにしか興味がなく、自分の周りのことには一切関心がなかったのです。ある日のこと、Edwordは娘と突然離れ離れになってしまうのです。
美しかった洋服はみすぼらしくなり、自分を特別扱いしてくれる人はいませんでした。Edwardの体は人から人へ渡り歩き、その間に様々なことを感じ、学び、そして愛を学ぶのでした。最終章は感動で胸が熱くなります。