Never Let Me Go が発するメッセージとは

『Never Let Me Go』を読了したので、私の読後感を書きます。私なりにこの作品に込められたメッセージを読み解いてみました。メインテーマと思われがちな〇〇にとらわれすぎると、本当のテーマが見えにくくなるのかもしれません。

これまで英語の絵本や英語の児童書をメインに読んでいた私ですが、少し前から大人向けの英語の小説を中心に読むようになりました。英語関連の仕事をいろいろ整理して、絵本や児童書以外も読める時間を作れたことは、私のこれからの多読人生にとっておそらく有益になるのではないかと感じています。

『Never Let Me Go』を読んだ

今回読んだのは『Never Let Me Go』Kazuo Ishiguro著です。Kazuo Ishiguroは日本生まれですが、5歳で父親の仕事のためにイギリスへ。日本生まれのイギリス人です。彼の書いた本の紹介で「日本人が書いた英語の本だから読みやすい」なんていう人がいますが、彼はイギリス人なので「母国語で書いた小説」なんですけどね。それに日本人にとって読みやすい英語ではないです。

Kazuo Ishiguroの本を読んだのは初めてで、翻訳本も一冊も読んだことがなく、どのような人でどんな小説を書くかも知りませんでした。長年家にテレビがないので、『Never Let Me Go』が映画になったり日本のテレビドラマになったりしたのも、知りませんでした。

この本を開いた時は、何をテーマにしている本であるかも知らないまま読み始めました。そのため、初めのほうは字面では読めても、いったいこれはどういうことを意味しているんだろう?と思うことばかりで、はっきりいって面白くありませんでした。

でもなぜか多読3原則に従わず、つまり「面白くないときは読むのをやめる」というルールに従わなかったのは、文章の背後に何か得体のしれないことが潜んでいると感じたからです。何かわからないけど、謎めいた雰囲気を文章から感じ取っていました。

そのうちにはっきりとこの小説のテーマが見えた時、急に面白くなってどんどん先が知りたくなりました。基本的にこのサイトはおすすめの洋書を紹介することが目的なので、ネタをばらすことはしないのですが、今回はばらさなければ私の読後感を語れないので、ばらします。ネタバレは次の見出しからになるので、この本を今読んでいる人、またはこれから読みたい人は、ここから後ろは読まないでくださいね!

『Never Let Me Go』

YL7.0
総語数96,096

ただ悲観するだけのストーリー?本当のところは・・・

この小説は臓器提供、しかも提供者がクローン人間という、衝撃的な内容です。生まれながらにして臓器提供で命を終える人生を背負わされたクローン人間の人生を思いながら読み進めて行くと、とてもつもなく重いテーマ、現実にそんな倫理に反した事実はあってはならないけれど、臓器提供という使命を持つ彼らがなぜ彼らの人生を素直に受け入れ、反発しないのか。そういった思いを抱く人は多いかもしれません。

私はいつの間にか無意識に、彼らが自分たちの任務を捨てて自由に生きる道を模索し始めることを願いながら読んでいました。でも彼らはそうはしなかった。

私はこの本を読み終えた後、この小説はただ臓器提供のために生まれたクローン人間の悲しい人生、そしてその運命をただ受け入れるしかなかったという悲しいだけの物語なんだろうかと思い始めました。

もしかしたら著者は、臓器提供やクローンという設定を通じて、人生を表現したかったのではないだろうか。臓器提供という使命を負う人間がいるという衝撃的な設定ではあるけれど、結局は人は生まれたら必ず死ぬ。これはみんな同じ。

臓器提供のためにクローン人間が作られるという、倫理に反するストーリー展開なので、そこに目が行きがちだけれど、ストーリーの中でその点に関して何か著者の思い、信念、メッセージ的なことは特に書かれていない気がします。

そうではなく、著者は人生という限りある時間を、いかに生きるかを問うことに焦点を当てているのではないかと思いました。それはクローンでなくても、臓器提供でなくても、普通に暮らす私たちにとっても、人生は限りある時間。その中で何を思い、何を決めて何をするか。どう生きるか。そういうことを強烈に読者に感じてもらうための設定だったのかな~なんて。

自分の感じていることって、どうなんだろう?全くの的外れだったら?!なーんていう小心者の私、いろいろ調べてみても結局わからなかったのだけど、いろんなこと書いている人がいたのはわかりました(笑)だから私も自分の考えを書いてみようかと思い至りました。

偶然、Kazuo Ishiguro氏が来日したときの記者会見の動画を見つけました。どんな英語を話すんだろ~と興味があり、見てみました。するとヒントになることを話されていますね!

『Never Let Me Go』に込めたメッセージを質問したあたりです。著者は「人生は思っているよりも短い。限られた時間の中で大切なのは何か」と答えています。

普通、私たちはいつ生まれたかは知ることができても、いつどうやって死ぬかを知ることができません。でも小説の中の設定ではどうやって死ぬのかは、生まれた時からわかっています。いつ死ぬのかも、だいたいわかる。そういう設定の中では自分に「残された時間」をはっきり意識できるのですね。それに気が付いた時、本当のテーマが見えました。

英語力について足りなかったところ

この小説は始まりからかなり経過するまで、肝心なところがぼやっとしてよくわかりません。多くの方が感じている点だと思います。日本語訳を読んだ人のレビューにも、そんなことが書いていました。

私も同じように、彼らがクローンであり、何のために生を受けたのかを知るまでは、英語はかろうじて読めても、ストーリーが読めずにいました。はっきりイメージできないのです。場面設定も人物の言動も、なんだかよくわからない靄(もや)の中にいるような、肝心な部分、「ここが知りたい」という部分が明かされない、モヤモヤした気持ちでした。

はじめは英語だから、読む力が不足しているだけと思っていました。それでも読み続けましたが、このままだと気持ち悪いということで、しばらく読んでから(三分の一くらいかな?)あらすじをインターネットで検索してみることにしました。それもネタバレするような記事を読むと興ざめしちゃうので、触りだけでも・・・という気持ちで。

無難なあらすじを探していると、私が感じているのと同じようなことを書いているブログを見つけました。詳しくは覚えていないのですが「そうか、実際ぼやかして書いているのか」と思って、安心したのを覚えています。とにかく見当違いでないことがわかり、安堵して読書を続けられたのでした。

けれど決定的に英語力の不足により、理解が十分にできずに楽しめなかった部分があります。それは最後の方でKathyとTommyがMiss. EmilyとMadameに再会して長年知りたかった謎を聞き出すシーンです。

Miss. EmilyとMadameがその時にはすでに閉鎖されてしまっていたHailshamのことについて教えてくれた、いくつかのことは理解できました。たとえば、臓器提供者のカップルが本当の愛で結ばれている場合には、臓器提供という任務からいったん解放され、数年の間一緒に暮らす猶予を与えてくれるという、Hailshamにいた時からまことしやかに囁かれていた噂が本当なのかという問いに対する答え。

けれども特にMiss. Emilyのセリフがかなり長く続く場面があるのですが、その部分はある程度の内容は把握できるのですが、Miss. Emilyの思い、感情までを読み解くまでには至らず、悔しい思いをしました。

字面を読んで内容を把握する力と、人物のセリフの背後にある気持ちまで推測できる力との間には、とても高い壁があると感じずにはいられませんでした。

私が英語の多読を始めてから英語の絵本に慣れてきて、ちょっと背伸びをして絵本ではなくチャプターブック、挿絵のない児童書を読んだ時のことを思い出しました。あの頃、モヤモヤ~として、何が書いてあるのかよくわからない部分が多く、人物のセリフを読んでも言ってることはわかるのだけれど、その人物の気持ちまで察することができずにいた頃のことを。

けれどあの頃そう感じた本を手に取ってみると、ちゃんとその壁をクリアしている自分がいます。だからきっと、今感じている壁も、必ずクリアできると信じています。絶対クリアします。

絵本や児童書中心の多読生活を、自分が興味のある大人向けの小説を読むことを中心にした多読生活に切り替えたことで、それは必ず実現できることでしょう。「あの頃は・・・」と、懐かしむ日が楽しみです。

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